2016/12/30

【今日の1枚】Festa dos Deuses / Hermeto Pascoal e Grupo


年明けにあのエルメート・パスコアルが来日するそうですね!
エルメートは日本のみならずブラジルでも人気で、特にミュージシャン達からの絶大な支持を受けています。私の通う音楽学校ではエルメートグループのアンドレ・マルケス(piano)が講師をしていることもあり、エルメートの作品は授業やセッションで必ず取り上げられます。そんなエルメートを"ブラジルの奇才"なんて呼ぶ人もいますが、実際どうなんでしょうか?


私がエルメートを初めて聴いたのは、2010年6月の来日コンサートでした。ボサノヴァ好きから一歩踏み出した頃で、エルメートの作品も殆ど知らない状態で行ったため、当時の私にはかなり衝撃的なコンサートだったのを覚えています。。笑
それから月日が経ち、"Quarteto Novo"というエルメートが参加していたグループのアルバムに出会い、そこからエルメートを聞き出すようになりました。

エルメート作品で個人的におすすめな1枚


Festa dos Deuses / Hermeto Pascoal e Grupo (CD/1992)
(邦題:神々の祭り)

沢山の作品の中から、私とエルメート好きの友人が選んだオススメはこちら。
いきなり1曲目の「O Galo Do Airan」で雄鶏の鳴き声が!!
「Quando As Aves Se Encontram Nasce O Som」はまさに鳥たちとの共演、「Fazenda Nova」では4/7拍子に乗って例の豚の鳴き声を聴くことができます。
このへんのチョイスから奇才と呼ばれるのかもしれませんが、彼はブラジルの北東部で生まれ、幼少期からピファノという横笛をもって鳥たち向かって演奏したり、湖で水と共演したりしていたそうなので、エルメートにとってはごく普通の選択だったかもしれません。

「Aula De Natação」(泳ぎの授業)ではFabíula Pascoalが子供に泳ぎを教える声に音が重なり、まるで幻覚のように聴こえます。「Três Coisas」(3つのこと)ではリオデジャネイロ出身の弁護士、詩人、俳優であるMário Lagoによるgesto, grito, passoという3つのキーワードによる少しリズミカルな詩の朗読と共に音が重ねられます。この辺りからポルトガル語にはリズムと音程がある!というのを実感できますね~。

「Irmãos Latinos」はちょっと雰囲気が変わり、タイトル(ラティーノ兄弟)の通りサルサの曲。
「Depois Do Baile」は軽快なバイアォンからジャズのスィングにリズムが変わったり、これもまたエルメートの特徴と言われる変拍子が続き、聴き応えがあります。Carlos Maltaのフルート、そしてソプラノからバリトンまで4本のサックスもさすが!
また、このアルバムは「Três Coisas」以外は全てエルメートの作品が収録されてると思いきや、1曲だけThelonius Monkの「Round Midnight」がポツリと入っています。原曲のコードからだいぶリハーモナイズされているので、このアルバムに入っていても違和感なし。これはエルメートのアレンジですがピアノはジョビーノが弾いております。

実はアルバム前半の奇抜な感じからエルメートは「変拍子でカオス」な感じに評価されがちですが、メロディを聞いてみると、出身地である北東部の音楽からヒントを得ていることに気づきます。例えば、同じメロディーやモチーフを繰り返す、コール&レスポンスがあるところ。よく注意して聞いてみると、意外と覚えやすいメロディです。これがエルメート中毒になる要因のひとつでもあるのでは?
そして、もうひとつの魅力はエルメートが積み上げる和音。米国ベーシストのエスペランサもお気に入りの「Ginga Carioca」のコード進行はⅡm-Ⅴ進行とはだいぶかけ離れていて、かなり不安定で複雑です。アナリーゼを試みたのですが、載せるのちょっと不安なので確認とってから載せたいと思います。
和声の先生から聞いたのですが、大学院でエルメートの研究をしている人が"エルメートの即興リハモナイズはメロディの音に対して、この和音をつける"というある程度の法則があることを発見したそうです。この変の話はまた今度!!

また、このアルバムに「Canção No Paiol Em Curitiba」という曲があるのですが、Paiolとは実際に存在するクリチバにある円形の形をした素敵な劇場のことです。かつてはヘシフェ、リオに住んでいたエルメートですが、実は現在は意外にもクリチバ在住だそう。クリチバはブラジル南部パラナ州の首都で、都市計画が成功した住みやすい街として人気がありますが、雨が多く北東部のイメージとはかけ離れているので、エルメートが住んでいると聞いてびっくり。友達がたまにショッピングセンターでみかけるそうですが、いつもトレードマークの帽子に派手なシャツ姿だそうです。

こちらがクリチバの Paiol  小さく見えますが中は広いです!

エルメートは、斬新なアイディアを使った素晴らしい作品を残し、沢山の人に影響を与えていることは間違いありません。ブラジルの自然を愛し、ブラジルの音楽を愛しているのが作品からにじみ出てわかります。
ただ、奇才・天才と呼ぶ人も多いですが、エルメートは毎日、何時間も楽器を演奏するそうです。起きたらすぐにピアノに向かう…と聞きました。(ホントかしら…)
リオに住んでいる時はグループのメンバーと同じ町内に住み、毎日集まっては炎天下の中でセッションをしていたそうです。
どうしても最初は「変拍子」「奇抜」「豚を楽器にする」というイメージがついてしまうようなんですが、エルメートのブラジルと音楽に対する愛がわかれば、更に面白く聴けると思います!!

エルメート率いるグループにも注目

エルメートグループに欠かせないのがサックス奏者なのですが、Carlos Malta脱退の後、Vinicius Dorinが長年グループを支えていましたが、残念なことに2015年に他界されました。そこで、Dorinの後継者として選らばたのがJota.P(ジョタペ)という私の学校の卒業生。見た目以上にまだ若いんですよ!!Filo Machadoグループにも参加しています。コンサートに行かれる方、ぜひ注目してみてくださいね!